GBAR ビームラインでの研究

GBAR での反水素原子や反水素イオンビームの生成

GBAR 実験では、反水素イオンを生成するために、大強度の反陽子ビームと高密度のポジトロニウムを用意することが不可欠となります。

反陽子ビームについては 2018 年から ELENA (ExtraLow ENergy antiproton Ring) という大強度の超低エネルギー反陽子リングが稼動しています。これは CERN の AD (Antiproton Decelerator, 反陽子減速器)が、5.3 MeV の反陽子ビームを提供していたのに対して 100 keV の反陽子ビームを提供するものとなっています。これによって RFQ 減速器を使えた ASACUSA 実験以外でも低エネルギーの反陽子ビームを使えることになりました。

GBAR で反水素原子および反水素イオンの生成に使う反応では数keV 以下の衝突エネルギーでないと十分な断面積にならないと予想されています。そのため、GBAR ではドリフトチューブとよばれる静電型の減速器を開発し、数 keV の反陽子ビームを得ます。それだけでは、減速後のエミッタンスがよくなく十分な数の反水素イオンを得るのが難しいため、反陽子トラップに一旦つかまえて電子冷却をした後、高品質のビームにしてポジトロニムとぶつけることになっています。

高密度のポジトロニウムは、大強度の陽電子ビームをシリカ標的にぶつけることで生成します。GBAR 実験では 9 MeV の電子線形加速器からの電子ビームをタングステン標的に照射し電子との対生成で陽電子を得ています。生成された陽電子をトラップに蓄積した後、シリカ標的に照射、ポジトロニウムを生成します。

ポジトロニウムは、それを構成する電子と陽電子のスピンの組合せによって、1 重項状態のもの(パラポジトロニウム)、3 重項状態のもの(オルソポジトロニウム)があります。それぞれ寿命が違いますが、長い方のオルソポジトロニウムでも 142ns でしかありません。このポジトロニウムの存在している間に反陽子ビームを打ち込めるように全ての装置を ELENA に同期させています。

反水素原子のラムシフト分光

※ ラムシフト分光実験は、山田科学振興財団および日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究 A (20H00150)の助成を受け、チューリッヒのグループと共同で研究を進めています。

上述のように GBAR 実験で反陽子ビームをポジトロニウム雲に打ち込んだときん生成された反水素原子は n=1 の基底状態だけでなく n=2 の励起状態も混ざっています。

Scheme of the Hbar Lamb shift measurement

反水素原子ビームのラムシフト測定の模式図

私たちは、この反水素原子ビームに含まれる 2S 状態の反水素原子にマイクロ波を照射 して反水素原子のラムシフトを測定します。図に示すように、反水素ビームが左から来 る場合を考えます。右手にある RF 脱励起装置で強電場をかけておきます。2S 状態の 反水素原子があれば、この電場によって 2P 状態とまざりますが、2P 状態は 1.6ns の 短寿命準位であり、すぐに基底状態 (1S 状態)へ落ちます。このとき、ライマンα光と して知られる真空紫外光を出します。このライマンα光を検出することで 2S 状態の存 在を知ることができます。 この手前にマイクロ波照射装置を置き、 2S1/2‐2P1/2 ラムシフトに相当するマイクロ波をかけます。 マイクロ波の周波数があっていれば 2S 状態にある反水素原子は 2P 状態に遷移します。 2P 状態は、直ちに基底状態へ落ちるため、その後ろにある検出器ではライマンα光が見えなくなります。これは Lamb と Retherford がラムシフトを見付けた実験と同様の手法となっています。

GBAR 実験において数 keV の反水素原子ビームが得られるため、それを有効利用する格 好で反水素原子のラムシフト分光を行います。現在、マイクロ波分光装置やライマンα 光検出器などが開発され、分光の準備が整ってきています。2018 年には水素原子での テストでラムシフト遷移がみられ、2021 年には水素原子でスペクトルも得られていま す。

反水素原子の重力加速度

GBAR の本体の実験では、上述の反陽子ビームとポジトロニウム雲の衝突で生成される反水素イオンを使います。生成された反水素イオンを RF トラップに導入し、そこで Be+ イオンによる共同冷却で冷やします。GBAR では二段階の冷却過程によって 10μK 程度にまで冷します。1.64 μm のレーザーで陽電子を一つはがして自由落下させます。真空槽全体を覆う Micromegas 検出器で落下した反水素原子の消滅時刻と位置を追跡し、重力加速度を求めます。

現在、トラップと自由落下実験槽を除く、ドリフトチューブ減速器、電子線形加速器、陽電子バッファーガス冷却装置、陽電子蓄積トラップが開発されており、2022 年にはこれらを使ってポジトロニム標的に反陽子ビームを打ち込み中性反水素原子ビームの生成実験に取り組み、反水素原子の事象を選び出す解析を進めています。その現状について、CERN の広報で紹介されています。 また、平行してマイクロ波分光装置の設計と開発を行っています。

GBAR zone 2021

2021 年のビームタイムにおける GBAR 実験エリアの様子


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