反水素、低速反陽子の実験 MUSASHI

Physics World Breakthrough of the Year で第 1 位

IOP (英国物理学会) の PhysicsWorld 誌 で反水素関連の成果が 2010 年の十大ニュース Breakthrough of the Year の第 1 位に選ばれました。 ALPHA による反水素原子の閉じ込めと並んで私たち ASACUSA MUSASHI グループによる反水素ビーム生成可能な装置(カスプトラップ)での成果が対象となっています。 Physicsworld.com より許可を得て翻訳した記事(抜粋)を以下に掲載します。

Physicsworld.com の記事本文(英語)へのリンク


Physics World 誌の選んだ 2010 年のブレークスルー、トップ 10 を発表

2010 年 12 月 20 日

2010 年におけるあらゆる素晴しい物理学の成果の中からの難しい判定でしたが、Physics World の 2010 年「Breakthrough of the Year」 を、水素の「反原子」の新たな制御法を開発した CERN の二つの国際チームに贈ることに決定致しました。

ALPHA 共同実験は、11 月後半、38 個の反水素原子(反陽子の周りを反電子がまわっているもの)を約 170 ミリ秒間閉じ込めたと発表しましたが、これは、このチームが 2011 年にも予定している詳細な分光学的性質の測定には十分な長さです。
その二、三週間後、同じく CERN の ASACUSA グループは、分光学的研究に適った反水素ビーム生成への重要な進展を報告しました。これら両方のチームにお祝い申し上げます。

私達はまた、続く 9 つのテーマを選定しました(註:原文参照)。 第 2 位には、系外惑星大気の初めてとなる光学的な直接観測の成功を、第 3 位には、肉眼でも見える程十分大きな物体での量子的振る舞いの観測の成功を選びました。

第 1 位:反水素での成果

反水素研究での大きな進展が私達の賞の第 1 位となりました。反水素のエネルギー準位の詳細な研究が、今や可能となってきたからです。 通常の水素と比べた場合どんなに僅かでも準位の違いがあれば、物理学における最大の謎の一つである、何故宇宙には反物質よりも物質が圧倒的に多いのか、を明らかにできるかもしれません。

ALPHA グループの代表、デンマーク、オーフス(Aarhus)大学のジェフリー・ハングスト(Jeffrey Hangst)教授は、physicsworld.com に対し、反水素研究の究極の目標は 1S と 2S 準位間遷移の測定だと語っています。この遠紫外領域の遷移は、水素に対しては 2 X 10-14 の精度で測定されており、同様の測定を反水素について行なうことで、CPT 対称性の破れを見つけられるかもしれません。そのような破れを発見するということは、同時に、なぜ宇宙で反物質よりも物質がありふれているのかということの理解の一助となるかもしれません。

ALPHA チームの直面している課題の一つは、精密な測定を行なうのに必要な十分な数の反水素を蓄積することなのですが、ハングスト教授によれば、チームは既に 11 月に報告された 38 個よりも「ずっと」多くをトラップしているということです。 ハングスト教授は、「ALPHA プロジェクトのここ 5 年間において最も困難だった点は、トラップできる程に十分冷たい反水素の作り方を探すことだった」と語っています。というのも、ビームで分光学的な研究するのは非常に困難だからです。

しかしながら、12 月に ASACUSA チームは、マイクロ波領域での分光学的測定に適うと見られる収束された反水素ビームの可能性を報告しました。この方法で、反水素のエネルギー準位の超微細構造の測定と水素のそれとの比較が出来るようになり、これによって CPT 対称性の破れの証拠に繋がる可能性があります。

ASACUSA チームのリーダー、日本の理化学研究所の山崎泰規上席研究員 (東京大学特任教授) は、physicsworld.com に対し、「反水素合成に成功した強い不均一磁場領域から磁場のない領域にあるマイクロ波共振器まで通すビーム」を作ることが次のステップだと語っています。グループは、ビーム引き出しから、あと一歩のところまで来ており、分光学的測定へもう少しのところでもある、と付け加えています。 山崎上席研究員は、「来年に反水素ビームを確認すれば、分光実験を始められると思う」と語っています。

二つのプロジェクトで最も面白い点は、水素と反水素の系において CPT が (もし、破れているのであれば) どのように破れているかについての確定的な理論予想がない、ということではないでしょうか。反水素実験は CERN において5 月に再開されます。わくわくするような結果に期待しましょう。双方のグループからの驚きの報告がもたらされるでしょう。

第 2 位以下省略(原文参照)

Physics World


関連リンク

ASACUSA MUSASHI members

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