反陽子、反水素、反物質反陽子は陽子の「反粒子」です。反粒子とは、粒子と質量、寿命、スピンなどの物理量やバリオン数、レプトン数といった量子数の大きさは同じですが、それらの符号が反対のものです。特徴としては、粒子と反粒子が出会うと消滅し、エネルギーになることが挙げられます。実際には、電子・陽電子対の消滅では、スピンの状態によりますが、511keV (電子や陽電子の質量に相当)のガンマ線 2 本を放出します。陽子と核子の消滅では複数個のパイ中間子を放出します。反物質の実験的研究においては、これら対消滅に伴なって発生する粒子を検出することで様々な情報を得ています。 ディラック(Dirac)が彼の相対論的波動方程式(Dirac 方程式)に基いて反粒子の存在を予想した後、1932 年に宇宙線から陽電子(反電子)が発見され、その存在が実証されました。 さらに 1955 年にはアメリカ、ローレンス・バークレー研究所の加速器 (Bevatron) を 使った実験で 60 個程の反陽子生成が報告され、その翌年に反中性子も発見されていま す。(表 1 参照) 1965 年には、欧州原子核研究機構 (CERN、セルン) で反重陽子も発見され、その後、反三重陽子、反ヘリウム 3 原子核が旧ソ連の研究所などで、反α粒子 = 反ヘリウム 4 原子核は 2011 年にアメリカの BNL で発見が報告されました。 一方、反陽子と陽電子の束縛系である反水素原子の合成は 1995 年に CERN の PS210 という実験グループによって 11 個(バックグラウンド 2±1 個)という僅かな数ですが、初めて報告され、続いて 1997 年にフェルミ国立加速器研 (FNAL) の E862 からも報告されるなど反粒子からなる「反物質」の存在も確認されています。この時、合成された反水素は光速に近い速度で飛んでいて物理測定の対象たりえていませんでしたが、2002 年に CERN の二つの実験グループ ATHENA、ATRAP によって冷たい反水素の大量合成が報告されて、ようやくその研究へ道筋が見えたところです。
今日では,高エネルギーの加速器実験において,粒子・反粒子の組が生成されています.また,高エネルギーの宇宙線の観測でも確認されいます(表 1 のミュオンやパイ中間子はその例です). 私たち、ASACUSA-MUSASHI グループは、その中で特に反陽子.そして実現している唯一の反原子である反水素を中心に据えて研究を進めています。 低速反陽子を用いた原子衝突反陽子は陽子と反対の負電荷を持つ一方で、同じ負電荷でも電子のおよそ 1800 倍の質量を持ちます。 非常に低いエネルギーで反陽子を原子や分子にぶつけると電子と入れかわって反陽子原子と呼ばれる奇妙な原子を形成することが知られています。 言わば「重い電子」という通常は存在し得ないプローブとなります。 このプローブとしての反陽子を用いて、私たちは低エネルギー領域における原子衝突過程を実験的に明らかにしようとしています。 反水素原子の研究反陽子自身や反水素の精密な測定も現代物理学にとって重要です。 標準理論の最も重要な特徴となっている CPT 対称性は、パウリ(Pauli)らが示したように、場の方程式が有限回数の微分のみを含みローレンツ変換に対して不変で因果律を満たすといった条件を課すことで得られます。 これは同時に荷電変換(C)、パリティ変換(P)、時間変換(T) を施しても物理法則が不変で、その帰結として、粒子と反粒子では質量、寿命や磁気モーメントの大きさなどの物理量は正確に一致することを示しています。 しかし、現代の物理学において標準理論は究極の理論とは見なされていません。 多くの物理学者が弦理論などの量子論と相対論を矛盾なく説明できる理論を研究しています。 そのような理論では、最早、先程の「CPT 定理」の幾つかの前提はかならずしも成り立つ必要はなくなります。また、近年 CPT 対称性を破る可能性も考えられるようになってきています。 私たちは、精密に反物質の物理的性質を知ることで、直接的に物質と反物質が対称なのかを検証しようとしています。 また現代の宇宙論では、宇宙はビッグバンから始まったと考えられており、物質と反物質は等量存在するはずです。しかし、宇宙は物質ばかりに見えます。 もし CPT 対称性に僅かでも破れがあれば、その不思議な現状の理解に寄与できるかもしれません。 最近の成果を読む。 |
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