低速反陽子を用いた研究私たちは、MUSASHI からの非常に低いエネルギーの反陽子ビームを、反水素原子や反陽子原子の合成に利用しています。 反水素ビーム生成と分光反水素原子を合成し、その性質を調べて物質との対称性を検証する実験を進めています。
1990 年代末に高エネルギーの反陽子ビームと Xe ガスターゲットの衝突でたまたま生成された反水素原子はそれ自身大きな運動量を持っており、精密な測定の対象たりえませんでした。
反水素原子を手に入れその性質を精密に調べるには、まず材料である反陽子と陽電子をたくさん、しかもなるべく低いエネルギーのものを用意しなければなりません。
MUSASHI を使うことで大量の冷えた反陽子を用意できます。
一方陽電子は、22Na 線源から放出される陽電子を反陽子トラップと同様の電磁トラップに蓄積することで得ることができます。
そのようにして用意された反陽子と陽電子を混ぜ合わせる装置として開発してきたのがカスプ (cusp) トラップです。これは、アンチヘルムホルツコイルで生成されるカスプ磁場に静電場によるポテンシャルを重畳して、反陽子と陽電子を同時に閉じ込められるようにした装置です。
反水素原子は電気的に中性ですが、磁気モーメントを持つことから、磁場勾配があると、その力で閉じ込めることができるのです。
CERN で反水素分光を目指している他のグループ(ATRAP, ALPHA)では、極小磁場配位を持つ Ioffe-Pritchard 型のトラップを用いて、反水素原子を閉じ込めて 1S-2S 準位のレーザー分光を目指しています。
反陽子と原子、分子の衝突過程研究テーマのもう一つは超低速反陽子と原子や分子との衝突過程の研究です。
反陽子は負の電荷を持つ重たい粒子で原子構造を持たないという点から、原子衝突過程の研究においては特異なプローブとなりえます。
原子標的に反陽子をイオン化エネルギー以上でぶつけると、原子から電子を弾き飛ばしますが(イオン化)、負電荷を持っていることから同じ質量でも陽子とは違って電子捕獲チャンネルは存在せず、より単純な過程を見ることができます。
言い換えると、陽子や電子との比較から、衝突過程において荷電符号の寄与と質量の寄与を分離して扱えるようになることを意味します。
特に原子衝突過程においては、荷電符号に関する現象の非対称性はボルン近似の適用できなくなる低エネルギー領域で顕著になってきます。
また、物質中に反陽子を止めると、ここでも「重い電子」として標的の原子核に束縛されて反陽子原子を形成します。 例えば、反陽子を液体ヘリウム中へ入射すると多重散乱の果てに反陽子ヘリウム原子が形成されることが知られており、本郷のグループを中心にそれの高精度レーザー分光による研究で大きな成果が上がっています。 しかしながら、そのような反陽子原子の生成初期過程については、図 4 に示しているように非常に低いエネルギーによる衝突断面積などがまだ一切実験的に明らかにされおらず、詳細はわかっていません。 私たちはガス標的と超低速の反陽子ビームを交叉させて単回衝突条件を作り出し、反陽子原子生成断面積を測定を進めています。
関連リンク
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ASACUSA MUSASHI のページ
ASACUSA 反水素実験のページ
ASACUSA のページ
GBAR 実験のページ
松田研の研究紹介のページ
理研・原子物理研究室のページ
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