パスポートの氏名表記はなぜローマ字か、日本字表記は可能か

 パスポートの氏名翻字規則を拝見しました。私は旅券の氏名記載は日本字でちゃんと本名を書くことによって、個人を特定し、その上でローマ字でもハングルでも、アラビア文字でも添え書きは自由にしてはどうかと言っています。

 日本字で本名を書くことについては賛成です。そうすれば旅券の更新などの時に再度住民票などの書類を一式取り寄せて提出する必要が理論上なくなりますから。つまり日本国政府の発給したパスポートが外国では使えても日本国内では身分証明書のかわりにならないという不思議な現状を変える第一歩になることが期待できます。

 ただし、残念ながらローマ字(ラテンアルファベット)の表記は国が決める必要があると思います。というのも、ほとんどの国のパスポートは氏名をその国の国語とローマ字で表記しているそうで、これは英語を始めとするラテンアルファベットを使う言語が事実上の世界の共通語となっている現状では必要なことだと思います。つまり、パスポートは日本人が外国で円滑に通行、滞在できることを各国に要請する文書なので、日本以外に日本語を使っている国がない以上、日本語でしか表記のないパスポートでは意味を持たないからです。

 世界の殆どの国の外務省や入国審査官は日本人の氏名をパスポートに記されたアルファベットの綴でもって特定しようとします。ビサが必要な国ならパスポート氏名とビザの氏名のローマ字表記が一致することを確認するだろうし、飛行機に乗る時にでも搭乗券とパスポートの表記が違っていたら乗せてもらえないかもしれません。日本語の表記はその際には残念ですが何の役にもたちません。すると当然各国は日本政府に対し氏名の「公式」なアルファベット表記を求めるでしょう。日本がローマ字表記を個人の自由にすることに決定したとしたら、そんないい加減なパスポートでの往来を拒否する国もあって当然だと思います。藤原さんが人によって Fujiwara だったり Houzihala だったりしてもいいなら、千秋さんが Chiaki でも Ciachi でも、はたまた Chiakky でも Chiichan でもいけない理由はなくなり、パスポートは個人の証明書たりえなくなるでしょう。日本の外務省が申請者全員の名前の日本字とローマ字の対応リストを持っているから大丈夫、などと主張したところで外国には通用しません。仮にアフガニスタン政府が発行したパスポートにアフガニスタンの言葉(アラビア文字を使用していると思う)で氏名が書いてあって、その下に所有者個人の判断で決めた綴りでカタカナが書いてあったとしても、日本の入国審査管がそのカタカナを信用して入国審査をするとしたらとんでもないことですよね。

 パスポートが世界に通用する証明書であることを要請しようとする限り、公式なラテンアルファベット表記は大前提にあるものです。

 ハングルやアラビア文字の表記が必要な場合どうなるかは知りませんが、私のロシアへの入国ビザは私のパスポート上のラテンアルファベット表記をもとに、ロシア側が決めた翻字規則に基づいてロシア文字(キリルアルファベット)に書き換えて表記してありました。

 ローマ字変換のワープロで香西を出すためには通常 KOUZAI と打つしかなく、KOZAI や、KOHZAI では出せないのですから、あえて混乱させるようなつづりをさせなくてもよさそうなものを、と思っています。

 ここはちょっと変です。ワープロは最近普及したもので、ローマ字変換の規則は日本語をローマ字に翻字する根拠にはなりません。やはり一番の問題は明治以来ヘボン式や日本式といった幾つかの翻字規則があって、それらが統一できなかったことにあると思います。小学校で国語の先生が日本式の翻字を教えるのに、中学校になって英語の先生がヘボン式が正しい、などといって教え、結局混乱を招いています。

 親は子供に名前をつけるとき、音や字面や字画を色々考えて命名します。外務省はそういったことに行政上の配慮が欠けているのではないか。

 確かにそうかもしれません。また、外務省旅券課窓口の対応が高圧的だというホームページも多いのでそうしたお役所仕事を請け負う役人の問題もあるでしょう。国民が関心をもつ事項が閉鎖的な内規だらけなのも問題です。それとそもそもの問題は、繰り返しになりますが、日本語をローマ字に翻字する規則をローマ字会も国語審議会も文部省も統一できなかったこと。これによって3、4種類の表記が混乱してしまったこと。それから、国民の側もその事情、またヘボン式ローマ字について正しく理解している人が少なく、日本人は漢字に拘る延長で個人名のローマ字表記にも拘りが強く、その反面外国語に対する知識が乏しいのでローマ字表記をすれば全世界の人に正しく自分の名前を読んでもらえるという誤解をしている人が多いこと、なども災いしているのでしょう。国民の多くが外国語に対する知識がもっと豊富ならば、その名前がアルファベットで綴られた時にどうなるか、まで考えて子供の命名をするようになっていたでしょうから。(現に国際結婚した人などはこの点に関して非常に気を配っています。)

 外国との関わりで氏名を論じるなら、法務省? が決めた規則もおかしなところが 多く、例えば漢字圏以外の外国人との国際結婚の場合、姓はカタカナで書く事が義務づけられており、そうすると日系人や日本人とのハーフの人と国際結婚した日本人女性の場合でも改姓後の名字は例えばフジワラでなくてはならず、藤原と表記してはいけない、などということになるのだそうです。私の友人にこの件で当局と争っている人がいます。その人の場合は外国籍のだんなさん自身は名字が漢字なのに(それが公式なものかどうかは確認できていないが)、結婚した日本人の彼女はカタカナ表記しか認めない、という変なことになっています。

 時代も変わったのに、まだまだ日本の真の国際化にはほど遠いのかもしれません。



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