ヨーロッパの空気は日本に比べ、実によく乾燥している。おかげで夏などはたとえ気温が高くても快適で、木陰に入ると涼しく感じることができる。しかしその反面、太陽光線は水分子に吸収されずに直接地表まで届くので、きわめて眩しい。夏のサングラスは決して気取ったおしゃれではなく、目を保護するための必需品なのだ。こうした明るく鮮やかな日射しのもとでこそ、あの印象画派の油絵が発達したのである。それまであまり絵画に興味のなかった私ではあるが、初めてヨーロッパを訪れたとき感じたものである。ああこの景色は、そしてこの日の光こそ、あの洋画の中の色なのだと。
反対に、日本の、湿度をたっぷりと含んだ空気感を表現するには水墨画がよく似合う。山紫水明とはよくいったものだが、近くの山の緑、遠くの山の青、そして遙かなる山々は、薄い霧に包まれつつ灰色になって色彩を失う。
私は夕方の、ことに夕焼けの時分がとても好きだ。青い空がだんだんと薄緑色に変わり、それはやがて黄色からオレンジ、赤と色を変えつつ、やがて深紅から暗い紫へ、そして夜の闇となって地平線の黒と溶けあっていく。時にはそれが水面に映り、薄紅色と淡い水色が織りなす波模様がゆらゆらと時の経つのを忘れさせることもある。欧州のそれは華やかに、日本のそれは情緒深く、暮れていく。どちらの景色も好きだ。
関連文書: ヨーロッパの気候、CERNでの実験と生活の様子、CERNの四季、カフェとすずめ、欧州写真紀行
書籍紹介: スイス四季暦(春夏編・秋冬編)東京書籍、松永尚三/さかもとふさ