夏の気候が心地よいヨーロッパでは、カフェやレストランが通りにはみ出してテラスで食事をすることが多い。きらやかな日射しの下、短い夏を謳歌しながら通りを行き交う人々を眺め、或いは眺められる姿は街の一風景となっていて、たまには音楽家が客のためにメロディーを奏で、あるいは花売りがバラのブーケを買わないかと話しかけてきたりと、人々とのコミュニケーションが楽しい。日本では残念ながら夏はじっとりと空気が重く、排気ガスにまみれた通りではビアガーデンやバーベキューはともかく、ゆっくりと外で食事というわけにはいくまい。
さて、優雅に食事をする人々の会話にお供をするのは、客の飼い犬(ヨーロッパではよく飼い慣らされた犬は電車や図書館はおろかレストランにすら同伴が許される)ばかりではなく、すずめたちである。パンくずのおこぼれをもらえることを知っている彼らは、日本では考えられないくらい大胆に近寄ってくる。(日本では田圃で稲穂を食おうとした雀は網にかかって串焼きにされたわけだから、とても警戒心がありますよね。)あるときなど、ジュネーヴ市街で昼食を取っていたときのこと、私の隣のテーブルで食事していた老婦人の机の上に一羽のすずめが乗ってきた。しかし婦人は、あるいは話し相手もいない寂しさを彼らとの対話で紛らせたかったのか、一向に気にする気配もない。それを察知したすずめはいい気になってついに皿の上に乗り、するともう一羽も飛んできて、たちまちスープの上でばたばたと喧嘩を始めたのである。あまりのことにボーイさん garc,on が伺いをたてたが、老婦は構いませんよ、といった様子。その後、何羽ものすずめの大騒ぎがテーブルの上で繰り広げられたのである。
まあ、この話は極端な例にしても、カフェなどで朝食でも取っている最中にちょいと席を空けるときはご用心。すずめだけでなく、甘いもの好きの蜂たちにもね。
関連文書: ヨーロッパの気候、CERNでの実験と生活の様子、CERNの四季、日射しと光
書籍紹介: スイス四季暦(春夏編・秋冬編)東京書籍、松永尚三/さかもとふさ