東京大学教養学部前期課程:2021年度 Aセメスター(秋学期)
主題科目学術フロンティア講義「放射線を科学的に理解する」
担当教員(東京大学):鳥居寛之(理学部:素粒子原子物理学)・小豆川勝見(教養学部:環境分析化学)・渡邊雄一郎(教養学部:生命環境応答学)
ゲスト講師:坪倉正治(福島県立医大:放射線健康管理学)・藤原徹(農学部:植物栄養・肥料学)
対象:東京大学教養学部 1年・2年、理科・文科。 単位:2単位(成績評価:出席とレポートで合否判定)
金曜5限。開講中!
(講義スライドはこのページからダウンロード。)
準指定教科書として、2011年度のテーマ講義を元に担当教員が共同で執筆した以下の新刊書籍の購入をお薦めします(推奨する第5刷以降は完全に同一内容)。なくても分かるように講義しますが、授業の深い理解やレポート課題の検討に役立てて下さい。
書籍「放射線を科学的に理解する ― 基礎からわかる東大教養の講義」
(丸善出版:初版2012年10月;第3刷2013年6月;第5刷2014年10月;第8刷2018年10月)
目標概要:
福島第一原子力発電所の事故から10年の節目が過ぎました。現地では、復興と帰還、そして廃炉に向けた取り組みが進んでいますが、事故にともなって広範な地域に放出された大量の放射性物質による環境汚染は、未だに社会的影響を与えています。昨今のコロナ感染症でも、科学的事実と社会活動とどう折り合いをつけるかで意見が分かれていますが、低線量放射線のリスクに関しては、そもそも科学的事実をどう認識するかによって様々な意見が対立し、メディアを賑わせて人々を混乱に陥れました。そして今、必ずしも人々の科学的リテラシーが向上したとは言えない状況の中、意識の風化が起きています。
放射線の問題を理解するには、物理・化学・生物・医学・工学・農学・法律・社会学など様々な分野の知識が必要で、全てを網羅することは容易ではありません。放射線の基礎的知識に関する教育は十分とは言い難く、大学においても、広く一般の学生が系統立って学べる機会は限られています。
その貴重な機会を提供すべく、教養学部の教員が科学者・教育者の使命と意気込んで震災以来毎年続けている講義が、主題科目「放射線を科学的に理解する」です。ゲスト講師も含めた様々な分野の専門家が、放射性核種や放射線の物理学的性質から生物学的・医学的影響やリスクの考え方、さらには環境汚染の社会的影響まで、幅広く講義を展開します。学際的な教養学部の強みを生かした講義で、科学的知識を体系的に身につけ、定性的および定量的に正しく判断する能力を養うことを目的とします。
理科生を主な対象としますが、意欲のある文科生も歓迎します。教員一同、熱意あふれる分かりやすい講義を心がけており、履修生からは、理解が深まり役に立つ授業だったと、毎年高い評価を受けています。今年度は、対面講義とオンライン講義の同時併用での開講を予定しています。多くの参加を期待しています。
日時:金曜5限
(1/18 は火曜だが振替日)
場所:対面教室 または Zoom によるハイフレックス講義
講義内容:
- 10/ 8 【鳥居・小豆川・渡邊】ガイダンス、【鳥居】放射線入門(放射線とは、身の周りの放射線)
- 10/15 【鳥居】放射線物理学(放射性崩壊と放射能、放射線と物質の相互作用)
- 10/22 【小豆川】放射線計測学(放射線の測定原理・方法・問題点)
- 10/29 【鳥居】放射線物理学・放射線化学(物質中でのエネルギー損失過程、放射線の単位)
- 11/ 5 【渡邊】放射線生物学(放射線の細胞および生体への影響)
- 11/12 【小豆川】環境放射化学(放射線量の時間変化、放射性物質の濃縮と拡散)
- 11/19 【坪倉】被曝調査・医療支援(福島事故後の内部被曝の状況、現場での医療)
- 12/ 3 【鳥居】原子核物理学(原子核模型と核構造、核崩壊と核分裂)
- 12/10 【鳥居】原子力工学と原子力事故(原子力発電の原理、原子力事故、放射性廃棄物処理問題)
- 12/17 【小豆川】環境放射化学(シミュレーションと将来の放射線量)
- 12/24 【藤原】放射性物質汚染と農業(植物によるセシウムの吸収と輸送)
- 1/ 7 【渡邊】放射線の利用(生命科学研究、育種、滅菌、工学応用など)
- 1/18 【鳥居】加速器科学(人工の放射線)、放射線防護学(線量評価・リスクコミュニケーション)・まとめ
レポート課題:
- 物理分野レポート課題(鳥居)【物理課題.PDF (213 kB)】
- 物理分野各回の講義スライドにも掲載。いずれか1つ(またはそれ以上)を選択。
- (締め切り:12月20日(月)までに ITC-LMS に提出。)
- 環境化学分野レポート課題(小豆川)
- 環境化学分野各回の講義スライドに掲載。いずれか1つ(またはそれ以上)を選択。
- (締め切り:1月11日(火)までに ITC-LMS に提出。)
- 生命科学分野レポート課題(渡邊・坪倉・藤原)
- 生命科学分野各回の講義スライドに掲載。いずれか1つ(またはそれ以上)を選択。
- (締め切り:1月18日(火)までに ITC-LMS に提出。)
講師紹介:
- 鳥居 寛之(東京大学理学部化学):専門は素粒子原子物理学・放射線科学。加速器施設にて反陽子やミューオンビームを使った基礎物理学の実験研究をしている。駒場在任中は前期教育の力学講義および基礎物理学実験を担当した。震災直後に自主講義「放射線学」を立ち上げ、その後、正課のテーマ講義シリーズとして発展させた。各地で学生向け講義や一般向け講演活動を行うとともに、放射線教育、科学技術インタープリター養成、またリスクコミュニケーション研究に携わる。理学部では放射線取扱主任者を務める。
- 小豆川 勝見(東京大学教養学部化学部会):専門は環境分析化学。原発事故以来、福島に頻繁に出張して土壌中の放射性核種を同定したり、市民講演会で講師を務めるなど奔走している。駒場前期教育では、基礎化学実験を担当。著書「みんなの放射線測定入門」(岩波科学ライブラリー)のほか、岩波「科学」の連載を始め、執筆記事多数。
- 渡邊 雄一郎(東京大学教養学部生物部会・教養教育高度化機構):専門は生命環境応答学。植物が環境の変化に適応する機構についての遺伝子研究。生命科学や植物学を講義している。放射線取扱主任者として、駒場キャンパスにおける放射線同位体施設の管理総責任者。
- 坪倉 正治(福島県立医科大学放射線健康管理学講座):医師として10年間毎週東京から福島へ往復し、相馬市・南相馬市の病院を拠点に医療支援に奔走して長年現場の住民に向き合ってきた。また、事故による内部被曝の実態を調査するとともに、現地にて放射線の講演会活動にも力を入れる。こうした社会貢献により、第1回「明日の象徴」賞および安藤忠雄文化財団賞など受賞多数。朝日新聞の医療サイト「アピタル」や福島民友新聞などの連載を始め、精力的に情報発信を行っている。
- 藤原 徹(東京大学農学部応用生命化学):専門は植物栄養・肥料学。ゲスト講師であるが、初年度から連続して担当している。東京大学農学部では事故後から福島県にて、放射性物質による環境汚染の森林・農作物・魚介類への影響について調べている。本講義では放射性物質のセシウムが土壌からいかに植物へ吸収されるかという話を中心に、原発事故が引き起こした農業への影響と対策について考える。
関連講義 ★ 2020年度Aセメスター:主題科目学術フロンティア講義「放射線を科学的に理解する」
(鳥居寛之・小豆川勝見・渡邊雄一郎ほか)
関連講義 ★ 2018年度Aセメスター:主題科目学術フロンティア講義「放射線を科学的に理解する」
(鳥居寛之・小豆川勝見・渡邊雄一郎ほか)
関連講義 ★ 2016・2015年度Aセメスター:主題科目学術フロンティア講義「放射線を科学的に理解する」
(鳥居寛之・小豆川勝見・渡邊雄一郎ほか)
関連講義 ★ 2014〜2011年度冬学期:主題科目テーマ講義「放射線を科学的に理解する」
(鳥居寛之・小豆川勝見・渡邊雄一郎ほか)
関連書籍 ★ 書籍「放射線を科学的に理解する ― 基礎からわかる東大教養の講義」
(鳥居寛之・小豆川勝見・渡辺雄一郎 著、中川恵一 執筆協力) 丸善出版
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総括担当教員(鳥居)への問い合わせ先
電子メイル torii-radio@radphys4.c.u-tokyo.ac.jp
このページの URL: http://radphys4.c.u-tokyo.ac.jp/~torii/lecture/radiolect21A.html
Last modified on 2022/1/18