CERN所内めぐり

CERN研究所はいくつかの敷地(サイト)に分かれているが、そのうち最も大きいのはMeyrin(メイラン)サイトである。スイスとフランスの国境線上に位置し、スイス側はジュネーヴ州メイラン地区に属する。ジュネーヴ・コルナヴァン駅から9番のバスでCERN行きに乗り、終点で降りればいい。バスはメイラン地区内を巡回するので30分ほど掛かるが、車だと15分で来ることができる。ジュネーヴ・コアントラン空港からだと車で10分という便利さだ。バスなら10番に乗り、途中 Bouchet 停留所で9番に乗り換えとなる。2km×1kmほどの大きさのこのサイトには多くのオフィスや主要加速器施設、実験施設、加工所、所内専用消防署、保健センターなどがあり、また講堂、レストラン、郵便局、銀行、トラベルセンター、宿泊施設(hostel / foyer)がメインビルディングまたはその周辺に集まっているので、たいていの用事なら街まで出かけることなく、所内で用が足りる。通りの名前には著名な物理学者の名前が冠されていて、さすがは世界の物理学研究所だ。アインシュタイン通りやシュレンディンガー通り、パウリ通りなどと言えばかっこいい。ところで、敷地内に国境が走っているのだが、特別許可車専用口を除き出入口がスイス側にしかないので問題はない。ただし間違っても柵越えなどしてはならない。

陸上の国境を知らない日本人にとって、いかに所内とは言え、簡単に国境をまたげてしまうことは結構新鮮な感覚である。また、CERNに通う人の中にはアパート代の安いフランス側に住んでいる人も多く、彼らは毎日本当に越境通勤しているわけである。この場合は、メイン道路上の国境税関 douanne を通ることになるのだが、大抵は軽い挨拶程度で通ることができるし、週末など検問所に誰もいなくてフリーパスになっていることもままある。田舎のローカルな検問所なんてそんなもんである。でも国境は国境。数年前にEUの主たる加盟国の間の国境検問が廃止されたが、スイスは永世中立、EUにも国連にも加盟していないので(でも国連のヨーロッパ本部はジュネーヴにある!)、スイスだけは検問はなくならない。ついでに言えば、欧州統一通貨ユーロが誕生しても、スイスフランはあくまで健在だ。

CERNのもう一つの主要な敷地は Pr'evessin(プレヴァサン)にある。SPS加速器関連の実験施設が中心だ。ジュネーヴといえば国際的に知られた街だが、実は人口はたったの16万、郊外をあわせても30万に過ぎない。それでもやはり都会には違いないのだが、これが国境を越えると一変する。パリが中心のフランスから見れば、ジュネーヴ周辺のフランスの町は東の辺境でしかない。それも、辺境にあるジュラ山脈を越えた麓の町なわけだから、僻地である。国境を越えたとたんに、それまでの二車線道路から急に狭くて舗装の悪い田舎道に変わるということもよくある。ジュネーヴは北東の方向、わずかにレマン湖を望む方角を除いてぐるっと330度をフランスに囲まれ、特にジュネーヴを囲む山々はいずれもフランス領なのであるが、そのうちローヌ河より北の、ジュラ山脈のある方は Ain(アン)県、南は Haute Savoie(オートサヴォワ)県に属する。プレヴァサンもアン県 Gex(ジェックス)地域の小さな町である。


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