CERN(セルン)研究所の案内

 スイスジュネーヴの郊外にCERN(欧州合同素粒子原子核研究機構)がある。ここは高エネルギー物理学、すなわち素粒子や原子核といった基礎物理学分野におけるヨーロッパの中心的な研究拠点であり、欧州19ヶ国が参加、出資して運営されている。
 数多くある粒子加速器(accellerator) の中でも LEP と呼ばれる電子・陽電子衝突型加速器は直径約10 km, 周長27 km にも及ぶ巨大なもので、レマン湖とジュラ山脈の麓の間を地下100メートルの所に延々とトンネルが掘られているのである。この中を光の速度で飛び回る電子は1秒間に1万周する。

 CERN の敷地は Meyrin(メイラン)地区と Pr'evessin(プレヴァサン)地区に分かれ、この他にも LEP 円周上に実験施設が点在する。中でも主だった施設は Meyrin に集中し、この中に PS ring(陽子シンクロトロン)、AA-AC complex(反陽子リング)、電子や陽子の線形加速器のほか ISOLDE など幾つかの実験施設が収まっている。私たちの実験グループが実験をしていた LEAR(低速反陽子蓄積リング)もこの中にあるが、残念ながら1996年をもって閉鎖されてしまった。そこでこれに代わる施設として従来の AA-AC を改造し、新しいリング AD(反陽子減速器)が1998年に建設された。現在はこのマシンのテスト運転が行われており、今年秋にも新たな実験がスタートする予定である。

 Meyrin の敷地内には実験施設の他にもオフィスビルや図書館、2つの食堂、銀行(Societ'e de Banque Suisse)、郵便局(PTT)、売店(Kiosque)、一般展示科学館(Microcosm exhibition)、宿舎(foyer/hostel)、保健センター、専用消防署(pompier) などがある。私も滞在中はここの宿舎に数カ月寝泊まりをした。組織としては他にも広報局、輸出入管理局、配送センターなどの部署があり、また物品購買ストア、金属加工所、プラスチック加工所、表面加工所、低温センター、化学薬品貯蔵施設など研究所として必要なものは何でも揃い、常時数千人規模の人が働いている。

 おもしろいのは、研究所が国境に位置すること。これは研究所が国際機関であり、そのために便宜がいいからだというが、実は Meyrin の敷地はスイス・ジュネーヴ州とフランス・アン(Ain) 県とにまたがっており、所内の何でもない道が国境だったりする。ただし出口(入口)はスイス側にしかないので実質的にはスイスであり、まさか所内に検問があったりはしない。でも外の幹線道路にはちゃんと国境検問所があるのだ。また、Pr'evessin は完全にフランス側にあるが、LEP は一周の間に境を6回も越える。つまり高速粒子は一秒間に六万回もスイスとフランスの間を行き来している勘定になる。

 ところで、ここ CERN は皆さんが今こうして楽しんでいる WWW (World Wide Web) の発祥の地である。大量のデータを扱う高エネルギー物理学の研究ではそれに対応したコンピュータソフトウェアの開発も盛んで、もともと WWW はデータの検索システムとして1984年に開発されたものが、その後急速に発展していったものだとか。

 それでは、その CERN 研究所に Let's GO!(英語)

 それから、私の案内による CERN 所内・周辺名所めぐりはこちら。ついでに CERN の四季、そして私の実験と生活の様子もご覧下さい。それから、我々の実験についての解説も是非お読み下さい。

 また、今年平成12年度の東京大学入学式に於いて、蓮實総長は式辞で、東京大学の研究の多様性を示す一例としてCERN研究所について長くかつ的確な紹介をされました。CERN研究所を一般の人に紹介するのにおいて優れた文章であると思います。全文は東京大学学内広報およびそのホームページで読むことができます。



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リンク先:
CERN 研究所
 加速器施設LEAR(低速反陽子蓄積リング), AD(反陽子減速器)
       LEP (OPAL実験東大素粒子国際センター), ISOLDE, LHC
 WWW 発祥地

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