東京大学教養学部前期課程:2016年度 Aセメスター(秋学期)
主題科目学術フロンティア講義「放射線を科学的に理解する」
担当教員(東京大学教養学部):鳥居寛之(粒子線物理学)・小豆川勝見(環境分析化学)・渡邊雄一郎(生命環境応答学)
ゲスト講師:坪倉正治(被曝調査・医療支援)・芳賀昭弘(医学物理・放射線医療)・藤原徹(植物栄養・肥料学)
対象:東京大学教養学部 1年・2年、理科・文科。 単位:2単位(成績評価:出席とレポートで合否判定)
金曜5限。開講中!
準指定教科書として、2011年度のテーマ講義を元に担当教員が共同で執筆した以下の新刊書籍の購入をお薦めします(第5刷以降を推奨)。なくても分かるように講義しますが、授業の深い理解やレポート課題の検討に役立てて下さい。
書籍「放射線を科学的に理解する ― 基礎からわかる東大教養の講義」
(丸善出版:初版2012年10月;第3刷2013年6月;第5刷2014年10月;第6刷2015年4月)
目標概要:
福島第一原子力発電所の事故から5年以上が経ち、福島の復興と帰還への取り組みが進んでいます。しかしながら、事故にともなって広範な地域に放出された大量の放射性物質による環境汚染は、今なお人々を苦悩させています。放射線の話題が連日マスコミを賑わせ、その影響について様々な議論が沸き起こっていた事故初年度と比べると、近年ではいわれなき風評も鎮まってきたものの、多くの人は放射線について深い科学的な知識を身につけないまま、人々の意識が風化を始めています。
わが国ではこれまで、放射線の基礎的知識に関する教育が十分になされず、科学的リテラシーの欠如が問題となります。放射線を理解するには、物理・化学・生物・医学・工学・農学・法律など様々な分野の知識が必要で、全てを網羅することは容易ではありません。大学においても、広く一般の学生が系統立って学べる機会は限られています。
その貴重な機会を提供すべく、教員が科学者・教育者の使命と意気込んで始めた講義が、今期で6年目の実績をもつ主題科目「放射線を科学的に理解する」です。教養学部の3人の教員:鳥居・小豆川・渡邊を中心に、他キャンパスの専門家もゲスト講師に招き、放射性核種や放射線の物理学的性質から環境汚染問題、そして医学的影響やリスクの考え方まで、幅広く講義を展開します。学際的な教養学部の強みを生かした講義で、科学的知識を体系的に身につけ、定性的および定量的に正しく判断する能力を養うことを目的とします。
理科生を主な対象としますが、意欲のある文科生も歓迎します。教員一同、熱意あふれる分かりやすい講義を心がけており、履修生からは、理解が深まり役に立つ授業だったと、毎年高い評価を受けています。
日時:金曜5限 (1/12 は木曜だが振替日)
場所:駒場キャンパス
講義内容:
- 9/30 【鳥居・小豆川・渡邊】ガイダンス、【鳥居】放射線入門(放射線とは、身の回りの放射線)
- 10/ 7 【鳥居】放射線物理学(放射性崩壊と放射能、放射線と物質の相互作用)
- 10/14 【小豆川】放射線計測学(放射線の測定原理・方法・問題点)
- 10/21 【鳥居】放射線物理学・放射線化学(物質中でのエネルギー損失過程、放射線の単位)
- 10/28 【小豆川】環境放射化学(放射線量の時間変化、放射性物質の濃縮と拡散)
- 11/ 4 【渡邊】放射線生物学(放射線の細胞および生体への影響)
- 11/11 【坪倉正治:相馬・南相馬病院】被曝調査・医療支援(福島事故後の内部被曝の現状、現場での医療支援)
- 12/ 2 【鳥居】原子核物理学・原子力工学(原子核模型と核構造、核崩壊と核分裂、原子力発電の原理)
- 12/ 9 【芳賀昭弘:医学部附属病院放射線科】放射線医療(放射線の医療応用と人体への影響)
- 12/16 【藤原徹:農学部応用生命化学】放射性物質汚染と農業(植物によるセシウムの吸収と輸送)
- 12/23 【小豆川】環境放射化学(シミュレーションと将来の放射線量)
- 1/ 6 【渡邊】放射線の利用(生命科学研究、育種、滅菌、工学応用など)
- 1/12 【鳥居】加速器科学(人工の放射線)、放射線防護学(線量評価とリスクコミュニケーション)
レポート課題:
- 環境化学分野レポート課題(小豆川)
- 第3回・第5回・第11回の講義スライドに掲載。いずれかを選択。
- (締め切り:1月12日(木)までの毎回の講義後に提出。)
- 生命科学分野レポート課題(渡邊・坪倉・芳賀・藤原)
- 第6回・第7回・第9回・第10回の講義スライドに掲載。いずれか1つ(またはそれ以上)を選択。
- (締め切り:1月6日(金)までの毎回の講義後に提出。)
講師紹介:
- 鳥居 寛之(東京大学教養学部物理部会):専門は粒子線物理学・原子物理学。加速器施設にて反陽子やミューオンビームを使った基礎物理学の実験研究をしている。駒場前期教育では、力学講義および基礎物理学実験を担当。特に物理実験学入門講義&実習の総責任者。震災直後に自主講義「放射線学」を立ち上げ、その後、正課のテーマ講義シリーズとして発展させた。各地で学生向け講義や一般向け講演活動を行うとともに、放射線教育や放射線リスクコミュニケーションの委員も務めている。第1種放射線取扱主任者。
- 小豆川 勝見(東京大学教養学部化学部会):専門は環境分析化学。原発事故以来、福島に頻繁に出張して土壌中の放射性核種を同定したり、市民講演会で講師を務めるなど奔走している。駒場前期教育では、基礎化学実験を担当。著書「みんなの放射線測定入門」(岩波科学ライブラリー)のほか、岩波「科学」の連載を始め、執筆記事多数。
- 渡邊 雄一郎(東京大学教養学部生物部会・教養教育高度化機構):専門は生命環境応答学。植物が環境の変化に適応する機構についての遺伝子研究。生命科学や植物学を講義している。放射線取扱主任者として、駒場キャンパスにおける放射線同位体施設の管理総責任者。
- 坪倉 正治(相馬中央病院・南相馬市立総合病院/前東京大学医科学研究所研究員):医師として毎週福島に出向き、相馬市・南相馬市の病院を拠点に医療支援に奔走して現場の住民に向き合っている。また、事故による内部被曝の実態を調査するとともに、現地にて放射線の講演会活動にも力を入れる。こうした社会貢献により、第1回「明日の象徴」賞を受賞。朝日新聞の医療サイト「アピタル」連載を始め、精力的に情報発信を行い、マスコミにも何度も取り上げられている医学系若手研究者。
- 芳賀 昭弘(東京大学医学部附属病院放射線科):原子核物理学から放射線治療の道へ進んだ、日本における医学物理のパイオニア的存在である。現在は医学物理士として東大病院の放射線治療の品質管理に携わるとともに診療放射線管理室室長として医療放射線管理を行っている。本講義では、医学物理士として放射線がん治療に携わる立場から、放射線の人体への影響について解説する。第1種放射線取扱主任者。
- 藤原 徹(東京大学農学部応用生命化学):専門は植物栄養・肥料学。ゲスト講師の中で唯一人、初年度から連続して担当している。東京大学農学部では事故後から福島県にて、放射性物質による環境汚染の森林・農作物・魚介類への影響について調べている。本講義では放射性物質のセシウムが土壌からいかに植物へ吸収されるかという話を中心に、原発事故が引き起こした農業への影響と対策について考える。
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(鳥居寛之・小豆川勝見・渡邊雄一郎ほか)
関連書籍 ★ 書籍「放射線を科学的に理解する ― 基礎からわかる東大教養の講義」
(鳥居寛之・小豆川勝見・渡辺雄一郎 著、中川恵一 執筆協力) 丸善出版
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総括担当教員(鳥居)への問い合わせ先
電子メイル torii-radio@radphys4.c.u-tokyo.ac.jp
このページの URL: http://radphys4.c.u-tokyo.ac.jp/~torii/lecture/radiolect16A.html
Last modified on 2017/1/6