子どもをバイリンガルに育てることはそう簡単なことではありません。私の叔母はイギリス人と結婚してワシントンD.C.に住んでいるので いとこ は3ヶ国籍持っているハーフです。では何もしないで彼らがバイリンガルになったかというとそうではなくて、母親はことある毎に(2ー3年に一度夏休みに帰国して、日本でまだ終わっていない1学期の最後の1ヶ月と、2学期の一部とか)子供を学校に入れさせていた。
そうすると、当時3才の一番下の子などは3ヶ月もすると立派に日本語を話し、しよう/しましょう といった待遇表現(丁寧語)まで使い分けたりできるようになった反面、英語はすっかり忘れて、お父さんの言っていることもまるで分からなかったよう。既に何回か日本で過ごしたお姉ちゃん達はどちらもちゃんと使えるようになっていました。下の男の子はその後アメリカに帰国して数ヶ月で徐々に日本語がおかしくなり、「えーっと、park に、か、car が、drive して、えっと、」ってな具合で、本人も「公園」「自動車」「運転」ということばを必死で思い出そうとしてもどかしい様子だったという話を聞きました。ですから、ここでやめてしまえば彼の日本語もそれまでだったのでしょう。
5才までに聞いた言語は、耳を慣らして発音を良くすると言う効果はあっても、その後ほっておくと、忘却のかなたに消えてしまいます。一方、それ以降に覚えた言葉は文法を理解する知恵がついているので(「文法」として習うと言う意味ではなく、頭の中で自然に文の構造を理解しうるほど脳が発達していると言う意味)後々まで消えません。
叔母はそれからも定期的に子供を日本に連れてきました。いま8才の彼は上手にバイリンガルしています。いや、彼の行っている小学校で習うフランス語もマスターしているようで、将来はトリリンガルになるかも。
こどもをバイリンガルにしたかったら、親が喋るだけじゃ足りないんですね。叔母の友達もやはりアメリカ人と結婚してロサンゼルスに住んでいますが、子供はたまに日本の実家に帰るくらいだったそうで、日常会話はできるのですが、漢字があまり読めないし、難しい言葉は分からないし、正しい電話の応対(もしもし、〜と申しますが、〜さんはいらっしゃいますか。)ができないし、といった状況。下の子はもっとひどく、本人も日本語に関しては苦手と言っていました。
日本語と英語といったように、まるで違う言語にたいして、2ヶ国語を話すためには親の並み並ならぬ努力がいるのでしょうね。バイリンにするならハーフより、むしろ両親が日本人で、10年くらい(それも5ー7才の時期をまたいで)外国に滞在するといいのかも知れません。勿論、子供自身、苦労も多いでしょうが。
CERN研究所で毎年一緒に実験をしているドイツ人は、日本人の奥さんで、夫婦の会話は英語。
今年3才になったばかりの坊やは、日本にいた頃は周りの皆と母親とが話す日本語をよく喋り、あとは父親のドイツ語に相槌を打って、夫婦間の会話には首を突っ込まなければそれで済んだのですが、父親がCERNに就職し、共稼ぎのために入れられた現地の保育園は当然フランス語。彼は多くの時間をフランス語を聞いて過ごす訳です。こうなると全部で4ヶ国語。混乱するに違いありません。
圧倒的に優勢であった日本語の地位が揺らぎ、最近はフランス語が口をついて出て来るようです。
お母さんとは日本語ですがその文法もフランス語の影響に蝕まれてきているようで、一方フランス語の分かるお父さんにはもっぱらフランス語で話しかけ、お父さんは一所懸命ドイツ語で話すのですが、まあまあ理解はするらしいものの、彼自身の口からドイツ語がでてくることはほとんどない。
全体的にも、まわりの3才児より言葉は遅れているようです。当然と言えましょうが、やはりマルチリンガルに育てるのは並み大抵の努力ではいかないと思います。