絶対音感の幼児教育

 絶対音感は子供の時の訓練で身に付けることができるが、大人になってからでは無理である。では、はたして自分の子供に絶対音感教育を施すべきなのだろうか。以下に私なりの意見を述べたい。

なお、絶対音感に関しては、他にも絶対音感持論音程の科学絶対音感の音の色様々な人の意見集のページもご参考にどうぞ。


子供が生まれて絶対音感を身に付けたいと貴殿のホームページを読んで思いメールしました。今3ヶ月なのですが、0歳からの絶対音感を教えてくれる教室などご存知であれば是非教えてください。

 お子様の教育に熱心なご様子はすばらしいことだと思いますが、ご質問の内容には正直なところ、ちょっと驚いています。まだ3ヵ月ということは言葉も話さないわけですよね。声楽家の友人にも意見を聞いてみたのですが、やはり、いまから絶対音感の訓練をするのは気が早いだろう、ということでした。赤ん坊のうちは、とにかくいい音楽を沢山聞かせてやる事で情緒や感性を育ててやるのが一番だと思います。絶対音が分かる事よりも、すぐれた音楽をすばらしいと感じる事の出来る心や感覚を養う事の方が重要なことでしょう。なので、いい演奏のCDをたくさん聴かせてあげてはいかがでしょう。私自身はクラシックが好きなのですが、親御さんが別のジャンルがすきならそれでもいいかもしれません。ただし、調子っぱずれの歌はやめておいた方がいいでしょうね。また、子供用の玩具の鍵盤は、まるで音がずれているものがほとんどなので、あれはいけません。ちゃんと正しい音を聞かせましょう。

 絶対音感というのは、「ド」の音を聴いて「ド」と言える能力なので、てっとり早くはピアノの「ド」の鍵盤を叩いてこれが「ド」だと教えこめばいいのでしょうし、実際そうやって教える教室もあるようですが、ただたとえ機械的にそうやって絶対音が身についたとしても、それは絶対音識別能力ではあっても絶対音「感」にはならないでしょう。音を和音の響きの中で、あるいは美しい旋律の中で捉えることができなくては、音楽の才能とはなりえません。ただの絶対音識別能力ならば、音波周波数分析装置なる機械に任せた方がずっと精度がよく測定できます。そこに感性が加わってこそ、人間のなせる芸術になるのではないでしょうか。

 絶対音感については、私は自分や友人の経験以外にはたいした知識を持っていないので専門家ではないのですが、おそらく3才〜5才の間くらいに聴音の訓練をすれば後天的に誰でも身につく能力だと考えています。ただし、あるいは赤ちゃんのうちに音楽を聞いていると言うことが必要条件になるかもしれません。そして、7才を過ぎれば絶対に身につきません。日本では高度経済成長期にピアノの英才教育が盛んだったからか、(若い人では)絶対音感を持っている比率が異常に高いそうで、ヨーロッパなどでは数万人に一人しかいないという特異な才能とされているそうですが、昨今の日本の音大生ではべつに珍しくもない能力です。

 ところで、果たして絶対音感を持つことが本当にその人にとって幸せなことなのかどうか、少し考えてみる必要があるでしょう。合唱団の友人などは、音がいつもカタカナになって聞こえるので本当の意味で音楽を楽しめていない様な気がする、と言っていましたし、絶対音があるがために自分の音感を過信して、和音の微妙なハーモニーを追究する研ぎ澄まされた音感を放棄していた自分に気付いて驚愕したという、ドイツに音楽留学した人の意見があるのも気に留める必要があるかもしれません。また、クラリネットやホルンなどの移調楽器、あるいは A = 415 Hz で調律する古典楽器などを演奏する場合には却って混乱することにもなるでしょう。

とはいえ、私自身は絶対音感があってよかったと思っています。声楽家の友人も便利な能力だと言っているのも事実です。ただし、絶対音感があることと本人の音楽的才能とは別個のものです。有名な音楽家が絶対音感を持っているかといえば、そんなこともありません。持っている人もない人もそれぞれです。

話が少し広がりましたが、お尋ねの件に関しては、今はいい音楽をどんどん聞かせてあげて、3才くらいになったらピアノ教室にでも通わせてあげてはどうでしょうか。そして5才までの間に、聴音(単音や旋律や和音を聞いてその音を言って当てる)の訓練をさせるのがいいでしょう。

# ちなみに、私の場合は、ドミソという言葉の他に、CEG(ツェーエーゲー)などと答える訓練をピアノの先生にさせられました。でも、私の絶対音感はフランス語式です。つまりドミソ。声楽家の友人はドの♯を聞くと Cis(チス)または調性によっては Des(デス)と聞こえるらしいのですが、全部の音がドイツ語音名のカタカナで聞こえて困る、という人はまだ聞いたことがありません。まあ、フランス語式音名の方がポピュラーなので、両方ちゃんと教えられているのでしょう。

いまのところは、言葉を話さない赤子に対して、ましてその子がまだ音楽とはどんなものかをちゃんと知らない状況で、「440〜442 Hz の音」を聞かせてこれを「ラ」と呼ぶ、と教えこんだところで、ほとんど無意味なことだと私には思えるのです。その前に、ピアノとバイオリンの音色の違いや、美しい旋律や、ハーモニーの心地よさを体感させてあげることが先決だというのが私の考えです。

 ご参考になりましたら。

# ただし、以上は私の私的な意見ですので、責任は持てません。お子様の才能に関してはあくまで親御さんのお考えで教育なさってくださいね。


関連文書: 絶対音感絶対音感持論音程の科学絶対音感の音の色様々な人の意見集

書籍紹介: 「絶対音感」最相葉月著、小学館



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