スイス紀行

 スイスは美しい国である。誰もがその壮大な景観を楽しみたいと憧れる山々、家々のベランダに咲いたプランターの花々。観光立国だけあって、アルプスに囲まれた自国の風景をきれいに保つことには並々ならぬ努力が払われているのである。

 スイスはとても保守的な国。訪れるだけなら結構だが、住もうとすると外国人には息が詰まりそうなくらいの規則があって、庭の垣根や花々の手入れが義務づけられていたり、夜間や休日にうるさい音を出す作業の禁止(なんとシャワーを浴びていい時間まで決められている!)、更には横断歩道を農耕具の鍬を持って渡るときの姿勢に至るまでこと細かに規定されているのである。外国人が6割を占める国際都市ジュネーヴなどはそんなことはないが、特にドイツ語圏の人達の厳格さというか、頑固さというか、融通の利かなさはドイツ人の比ではない。

 スイスは我が道を行く。世界中の金持ちが集まり、銀行業が栄え、スイスフランが強いため物価の高さは日本の比ではない。普通の国なら外国人の不法就労が問題になろうが、スイスは長期滞在して働こうとする外国人に厳しく、まして永住など考えるだけでも大変である。ジュネーヴには数々の国際機関が建ち誇っているが、自身はあくまで中立であって、ヨーロッパ本部が置かれてはいても国連にすら加盟していない。もちろんEUにも参加せず、周辺諸国が統一しようとするなか、スイスだけは未だに国境検問がある。周りがユーロに移行しようが、強いスイスフランは健在なのであろう。中立であることは、自国で自国を守る、ということでもあるから、男子は兵役の義務が、しかも青年期から熟年期までなんと毎年ある。全ての建物に地下核シェルターの設置が義務づけられているのもまた事実である。

 スイスは多言語国家である。ドイツ語圏が65%を占めるが、西のフランス語圏(スイス・ロマンドという)、南のイタリア語圏(ティチーノ州)の3言語が話され、スーパーで買う国産(スイス産)の雑貨や食料品には必ず3ヶ国語で記述がある。さらに、人口が1%に満たないのであるが、ロマンシュ語という、ロマンス語族の中でも古い系譜に属する言語がサンモリッツを中心とする東部の山間で話されていて、お札には都合4ヶ国語が印刷されている。鉄道で旅をすると面白いのは、言語境の街で乗客の総入れ替えが起こること。一等車のビジネスマンと、境に位置する街の住人は別として、言語境を越えた交流は案外少ないのかもしれない。

 スイスには山も多いがも多く、この国の美しい自然の重要な要素となっている。レマン湖 Lac L'eman 畔にはジュネーヴ、ローザンヌ、モントルーが、ヌシャテルはヌシャテル湖畔に、ビール/ビエンヌはビール湖に、インターラーケンはトゥーン湖とブリエンツ湖に挟まれて位置する。ジュラ山脈の合間の小さなジュー湖 Lac de Joux も素敵だ。チューリッヒにはチューリッヒ湖が、ルツェルンには美しい「四つの森の国の湖 Vierwaldst"atter See」がある。ティチーノ州のロカルノ・アスコナはマジョーレ湖 Lago Maggiore 畔にあり、ルガノにはルガノ湖がある。そんななか、大きな街としては唯一(国境の街バーゼルは別として)湖がないのが首都ベルンである。代わりに市内にはアーレ Aare 川が蛇行し、他の各都市とは違った趣を誇っている。


スイスの有名な街  太字は私が訪れたところ)

Map of Switzerland


関連文書スイス旅行ガイド(1)川と湖ジュネーヴ便り(春夏編)ジュネーヴ便り(秋冬編)

書籍紹介: スイス四季暦(春夏編・秋冬編)東京書籍、松永尚三/さかもとふさ
     ミシュラン・グリーンガイド「スイス」日本語版、実業之日本社



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